まねだの日記

かけだし生物学者の留学日記

論文に向けてスタート

更新をストップしていた。理由はここでは述べない。

半年も更新しなければ読者も消えただろうということで、またのびのびと更新していく。ちなみにタイトルは好きなドラマである結婚できない男にインスパイアされた。

誰かに「おっ!まねだ更新してるぞ!」と言われる日がくるかもしれない。

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さて、研究についてだが、言語には相変わらず不自由しているものの、とても充実している。何と超面白い事実を発見して、ボスに火が付きいよいよ論文を書くことになった。これは自分の目標より2年以上早い。ロレンツとハーマイオニーと3人の共同作品である。なので、おそらく3人でco-firstになるかなという感じだ。痺れるくらいに面白い内容なので、世界からも評価してもらえるだろうと期待している。

ちなみに今日は朝から合計7時間ミーティングをした。たった4人しかいないからめちゃめちゃ喋る機会があったのに、終盤はKO寸前で、デイドリーミングしまくった。しかし、自分の研究に関わっているからとはいえ、ほとんどの会話を聞き取れたので、これはこの一年の努力の賜物だと思って素直に喜びを噛みしめておく。

 

その会話の中でジルから気になる発言があった。まずは今の研究内容を今年中に出し、その次の5年はその現象と僕とロレンツのデータを中心にじっくり攻めてまた大きいものを出す、と。、やはりPIはポスドクが合計5、6年在籍するつもりでいるのだろうか。本当は来年の秋あたりからジョブ探しを始めようと思っていたのだが、それを聞いてもう一年伸ばした方が良いかなと思い始めた。実際、彼の神髄をまだまだ全く学べていないわけだし。どうせなら2 authorsペーパーも書いてみたいなぁ、と思う。

 

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最近飲み仲間が増えた。リヨナという名前のフランス人なのだが、これがすごい。謙虚なのにめちゃくちゃ頭が良くて、話していると自然と笑みがこぼれてくる。どうやったらスパイクシークエンスが生まれるのか、それが現在彼が夢中になっているテーマなのだが、彼は解く「価値」のある問いと、それをどんな手法で攻めるべきかを完全に把握している。ちなみにまだ二十歳なのにもう修士課程を終わろうとしているらしい。スゴイ人は学年に縛れずどんどん飛び級していく。優秀な人たちにとっては最高な環境だろう。

一方で、逆になんじゃこいつは、なめてんのかという学生もたくさんいる。詳細は省くが、要するにこちらの学生はピンキリなのだ。だから若手PIは思い通りにいかなくてとても大変そう。それを見ていると日本の研究機関の方が楽そうだなと思う。学力は平均値をとると東大の学生の方が圧倒的に上だし、何より大人しいし。でも海外でラボを持つことに対してあこがれはある。次のブログでは日本での独立と海外で独立の利点と欠点をまとめてみようと思う。

 

 

 

 

 

276日目

今日はSABミーティングだった(ちなみにScience advisory boardの略だと今日知った)。このミーティングは、外部審査員たちが研究所を存続させる価値があるかどうかをガチンコで評価する会だ。

知ってる名前を挙げれば、ブザキ、セジュノスキ、イブ・マーダーなど。いわゆる超トップ研究者たちが我々のPIを質問攻めにする。マーダーのことをマーダラーと言い間違えてNO!と言われたことは秘密だ。

一番見ごたえがあったのはジルvsブザキ。ジルが自分のトークにおいて、発火のシークエンスが生まれるメカニズムを提唱したのだが、ブザキが早速噛みつく。

ブ「そんなのではリップル中のシークエンスの説明はできない」

ジ「すぐリップルに当てはめようとするな。これは全く違う現象の話をしている」(意訳)

ブ「しかし一般的に考えても…」

といった激しい衝突。普段からJCで誰かがブザキの論文を発表しても

こんなにくだらない研究はJCに取り上げるべきではない、と辛辣なコメントをしているのだが、それがよくわかるやり取りだった。

 

で、問題はここから。珈琲ブレーク中にまさかのポスター発表。ジルがすると思っていたらポスドクが各々でするらしい。

説明の準備何にもしてないし、ブザキだけは来るなよーと思っていたらブザキが来た。

詳しくはここに書けないのだが、「in vitroで研究して何の意味があるの?」と早速喧嘩を売ってきた。「このin vivo至上主義者め貴様の不当にバイアスのかかった引用の仕方にどれだけ苦しい思いをさせられているか!!」という言葉を飲み込み丁寧に利点を列挙。すると、ふーん、ま、活動がin vivoに近くなるようなイオン組成をできるだけ真似した方がよいよと真っ当な意見をもらった。あとは基本的な説明をして終わった。投稿中の論文について触れようと思ったがやめておいた。

 

午後が大変だったのだが疲労困憊なので書かずに寝る。

268日目

本当は268日目ではないけどまぁいいか。

自分が雑用をこなしている間に、同僚はかなり進んでいた。ロレンツが面白い現象を見つけていて、ジルから「面白い!NatureのArticleに出そう!」とまで言われていた。厳密には僕が初めに発見したのだがロレンツとハーマイオニーが気づいたので1stはロレンツかな。遺伝的なバックグラウンドと照らし合わせて何が楽しいんだと思っていたけど、聞いた時は鳥肌が立ったわ。もちろんめちゃめちゃ嬉しい。でも今回のブランクがなければ、、、と思うと悔しすぎる。

 

台湾人夫妻は相変わらず手を広げている。今度はin vivoイメージングをやるらしい。結局何も生み出せずに終わるやつだから一個のことに集中しろと誰か言ってあげてほしい。手だけ広げて他の人の領域に平気で侵食するのまじでやめて。

 

ハーマイオニーは、先週コロンビア大学の面接に行ってきたらしい。しかも好感触だと。ついでにScienceにもついに投稿完了。順風満帆とはまさにこのことだなおい。

 

ていうかジル、やっぱりすげー。重要な現象を見つける「目」を持ってる。よくジルと真逆の仮説を立てたりして、おれの方が正しいことを証明してやるぜ、と試みたりするのだが、勝てた試しがない。

きっと二年以内に各トップジャーナルでドラゴン(とイカ)祭りが始まるぞ。自分も負けてられない。焦らず行こう。一つずつ丁寧に。

 

192日目その2

研究メモ
自分が今後必要とするスキル、または人の力を借りねばならない手技

免疫染色
in vivo記録
Virus投与
シミュレーション

今の実験と合わせて全部一人でやると死ねるな…。一昨年だったかScanzianiのラボの中国人が、たった一人でNature のArticleを完遂させていたが、あれは化け物だな。

192日目

この半年間、仏の心で過ごしてきたので、人にどんなお願いをされようとYesと答えてきた。また、元々好戦的な性格にも関わらず、争いは一切避けてきた。日本にいた時の自己中ぶりはどこへ行ったのかというくらいに善い人、自分。

しかし、昨日、今日はついに避けられない問題が発生してしまい、悶々としている。

 

1.vsドイツ人のまーせる君(結構年上、ポスドク、実験物理のPh.D

基本的に彼は意地悪。教えてほしいことがあって、could you give me a second?と聞いたら1, 0. Bye と言って本当にその後無視してくるような人。だから関わらないようにしていたのだが、一昨日ずかずかと僕の実験室に入ってきて使用中のポンプを持っていかれそうになった。はぁ?ふざけてんの?と聞いたら「このポンプは元々おれのだ。サムがおまえにやったのか知らないけど元々は俺が所有者だ」、と主張を始めた。こいつの説明は的外れなのだが、まぁ全ての装置はジルのものだし、シェアするべきかなと思ったのだが、よく考えたら誰も使っていないポンプが大実験室に転がっている。それを使えよと言ったら「あれはマークのだから使わない」という意味不明な説明が始まった。マークはすでにこのラボから去ってPIとして独立している。まだたまに追加実験をしに戻ってくるらしいのだが、あのポンプはほとんど使っていない。理由にならないぞと言っても頑なに奪おうとしたので、マークのを使え、触るなと言って追い出した。さっき聞いた話によるとロレンツのところにも来たが彼もマークのを使えと言って追い払ったらしい。

そしてその二日後の今朝、実験室に来てみたら、なんとポンプがなくなっていたのである。マークのは転がったまま。さすがに頭にきて直接伝えることにした。証拠を残すためにメールで、しかもミカエラ(技術部門の長)にccした。「なぜおれの許可を得ずに使ったの?マークのを使えと言っただろ? ちなみにそのポンプ、昨日毒をいっぱい使ったから今日洗おうと思っていたけど、君の標本生きてる?」と。すごい反抗メールが返ってくるかなと思ったら、意外にも「I'm sorrry,but~~」と、なんと謝ってきた。ミカエラへのccが効いたと思われる。彼が謝ってくるのは初めてだったので、その後の言い訳は意味不明だったけど許すことにした。で、廊下ですれ違うときにHi、と挨拶をしてきた。初めてだったのでとても驚いた。

要するに今までおれが何も主張をしない格下だとなめられていたという結論に至った。これからも言いたいことは伝えよう。

ていうかどんだけマークが怖いねんwおれ彼にshut up と言って黙らせたことあるんだけど実はやばかったのかな。

ちなみに彼は謝りながらもポンプを返却していない。


 

2.vs台湾人夫妻

彼らとは研究上の駆け引きみたいな感じ。元々悪い人たちではないし、基本親切なのだが、日に日に妻の研究が僕に似てくるのを感じていた。だから来週の自分の発表においてこの研究は自分のだということを先に皆に伝えられればと思っていた。

しかし、驚いたことに昨日の夫の発表において、なんと夫が妻のデータを発表し、構想を話すという、驚くべき事態が発生した。その構想、やはり見事に自分の研究とリンクするの。すごく落ち込んだんだけど、放っとくわけにもいかないからさっき妻に直接なぜ夫がそのデータを発表したのか聞いてきた。すると、夫は自分のデータがなかったから私のを発表しただけよ、とのこと。それはそれで奇妙な話ではあるが、そう言われたら言い返すこともできないのでもう一つの質問をした。おれと将来競合すると思っている?と。すると、競合というか、コラボでいいじゃん?私はECでもセカンドでも、学位がとれればかまわないよ?との返答。それを聞いて彼女の行動がようやく理解できた。まさか筆頭著者じゃなくでよいとは。だからと言って安心して気を抜いたら全部もっていかれるので、トップスピードで引き離す所存。そして、おれの予想ではこの仕事の2ndはおそらく他の人になるかな。


どちらもタフなイベントではあるし、解決したわけではないが、成長させてくれると思って頑張るぜ。

これからも、常にpeacefulな心を保ちながらもグイグイ主張する。

 

 

 

189日目

日本の気候はどうですか?こちらは早くもすっかり秋になって超快適だよo(`ω´ )o(K○miya的挑発(内輪ネタ))


料理

今日は考え事をするために、昼から鶏の脚を解体していた。

ささ身はとても充実しているのだが、こっちには日本での必需品である鶏もも肉が売られていない。なので鶏ももが食べたければ自分で骨を外してカットしなければならないのだ。

昼は太めのネギとともに焼き鳥を作り、余ったパーツを長時間煮込んで鶏がらスープを、夜はそのスープをベースにした親子丼を、それぞれ作ってたらふく食べた。美味しかったのだが親子丼は醤油と白ワインの香りが強く、時間をかけて作ったスープの恩恵を余り感じなかった。

しかし久々にジューシーなお肉を食べたのでとても満足。


家庭菜園

随分書いてなかったけど、初心者にしてはかなりうまくいったと思う。トマトは永遠に鈴なり状態、さやえんどうもたくさん収穫でき、バジルは放っておいてもたくさんその葉っぱを供給してくれた。

唯一の心残りがズッキーニで、結果的に二本しか収穫できなかった。まず雌花と雄花が同タイミングで咲く必要があり、さらには自分で受粉させてもうまくいかないことがほとんどなのだ。20回ほど受粉にトライして、成功はたったの2回。10%の成功率とはどういうことなんだ。超単純作業のはずなのに、何かを間違えているのだろうか。

しかしスーパーにトマトもズッキーニもいっばい売られているので、来年はシソや大豆など、日本的なものの育成に努めようと考えている。


論文

某ジャーナルから未だに返信が来ない。はや12週間、三ヶ月が経過しようとしている。周りのポスドクも少しざわつき始めた。尊敬するI藤先生や、他のリーダーに過去にこういう経験はありましたか?と聞いてみたら、ないとのこと。可能性は二つで、一つは競合者による妨害、もう一つはback to backで出版したいがための時間稼ぎではないか、とのこと。後者なら最高なのだが、僕は前者だと思っている。自分の領域のエディターはかの○ックマンラボの出身なので、その人たちに肩入れしている雰囲気は常々感じる、と、ザッ○マン一派のポスドクから聞いた。

ということで催促メールを送ってみたらどうかと言われたのでボスに連絡してみようと思う。

しかし三ヶ月はないわー。来年のフェローシップの申請に間に合わなかったらつらいな。これで落とされたらこの雑誌まじで嫌いになる。


研究

順調。この前見せたデータがボス的にヒットしたらしく、最近むこうから進捗は?来週ミーティングするぞ、とプレッシャーをかけてくるようになった。それが目標だったのでとても嬉しい。しかし、次のプランを巡って完全対立。前にも書いたように、ボスは僕と違って人工的な操作が大嫌い。だからLTP誘導という、超超超基本的な実験すらやらせてもらえないのが辛い。こっそりやるかな。

ちなみに僕はある現象の役割が知りたいのだけれど、ボスはある現象が生まれる根本原理、大原則が知りたいそうな。だから頻繁にぶつかる。先週は論理が飛躍している、役割を知るためにはまずメカニズムを知るべきでしょう、だよね?と二時間詰め寄られ続けた。ずっと座って話してたのに、疲労がすごくてその後歩けなかった。


サムはおまえの研究なんだからおまえが全て決めてよいと言ってくれるけど、このままボスに染まってみたい気持ちもあるんだな、これが。悩ましい。



気付けばこちらに来て半年が経っていた。早すぎる。言語能力よ頼む向上してくれ。


169日目

現ラボからは論文があまり出ない。
理由の一つとして、扱っている研究対象が難しく、攻めあぐねているということはあるのだが、最大の理由はボスの考え方にある。

先に前ラボ(UTの方)の話をしておこう。前ラボのボスは、論文を驚くべき早さで量産していた。ハイインパクトな研究から、???と思う研究まで、全て、だ。その理由はとても納得のいくもので、科研費を使って行った研究である以上、実験データを全て世に公開することが何よりの誠意だと、そう仰っていたのを聞いたことがある。素晴らしい、の一言だ。これ以上の振る舞いはないのではないか。


一方で、ジルはたとえデータが溜まっていても論文を書かない。その研究がサイエンスを大きく前進させるという確信がない限り投稿しないと決めているのだ。たとえポスドクがデータを大量に持ってきても、平気で切り捨てる。データがあったのに論文を出せず、アカデミアの世界を去った人が何人もいると聞いて、はじめは怖くなって震えていた。
前ボスの方が大衆への理由も全うだし、ポスドクや学生のためにもなるような気がする。ジルはなぜインパクトの低い、小さな仕事を論文にしないのだろう。
その理由は、ジルがジルであるから、だそうだ。ドイツ国は、ジルに、ジルにしかできない仕事をしてもらうことを期待して巨額の投資をし、MPIのヘッドとしてアメリカから引っ張ってきた。小さな論文を書くことなど誰も望んでおらず、とにかくすごい仕事をしてほしい、というのがお上の意向、そして民意らしいのだ。小さな論文を書いている時間があったらその時間を使って探索実験の時間を増やし、大きな仕事を発芽させることに注力すべきだと、本人も考えているらしい。この考えにもすごく納得がいった。
また、その研究機関から出た論文中の何%がハイインパクトジャーナルか、という数字もその研究機関のレベルを評価する上で重要な指標となっていると聞いた。ちなみに昨年はR研が5%、MPIが6.5%で、どちらも世界ではかなり上位につけているらしい(←M本理事長から直接聞いた)。R研の前センター長が、Neuron以上じゃないと価値がない、と言い続けていたのはそういう理由もあったのかもしれない。

前ボスとジル、どちらもサイエンティストのお手本のような指導者だ。自分が将来どうなっているかはわからないが、もしかしたら小さな仕事しかできないような研究者になっていることだってありえるが、科学を前進させられるような仕事ができるよう、腐らずに頑張っていきたい。